コロナ禍でプライベート志向が強まり、リゾート会員権市場に復調の兆しが表れています。
とりわけプライベート空間で開放性を独立棟タイプや客室温泉付きのプライベートホテルは人気のようで、賃貸借契約をベースにしたものから、ホテル運用をベースにその収入で配当を支払うモデル、月額定額制のサブスクモデルまで多様性を見せています。
展開エリアも多様で、北海道、沖縄、関東近郊までバリエーションに富んでいます。
消費者には多様な選択肢が増えたことで、自身にあったリゾートを選べる時代がやってきました。
当然ながら、各々会員制リゾートに一長一短があります。
選択肢が増えたことで、購入側のリテラシー向上も欠かせなくなりました。
安い買い物ではないですから、各々の会員制リゾートの特徴や自分の価値観に合うものか、しっかりと吟味してもらいたいと感じています。
目次
今回はGrande(グランデ)の特徴をおさえながら、持続的な会員制リゾートのあり方について考えてみたいと思います。
下表は、今まで市場に流通している会員制リゾートで採用されている平均的なビジネスモデルとGrande(グランデ)の比較をまとめたものです。
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ビジネスモデルによる商品特性 | 旧来の会員制リゾート | Grande(グランデ) |
---|---|---|
会員属性と今後への対応 | 高齢化しており、中長期的にリスクがある | 若い富裕層に支持されやすい商品性がある |
運営システム | 低料金で運営赤字となりやすい | 柔軟な仕組みで収支コントロールが容易 |
開発における課題 | 建築費の高騰や規制対応への難易度が高い | 柔軟な施設開発が可能 |
成長市場への対応 | インバウンドなどビジネス機会を取り込みにくい | フレキシブルな運営ルールで対応しやすい |
運営コストの上昇リスク | 硬直的な運営ルールでコスト上昇を吸収しにくい | フレキシブルな運営体制とプライシング |
今までは資本効率を重視するため、数十~数百室のホテルタイプのリゾート会員権がオーソドックスなスタイルでした。
分譲価格は数百万円~数千万円に設定、利用料金を均一価格で抑えたものが支持されてきました。
このタイプのリゾート会員権は仕事をリタイアした富裕層シニアに人気であり、低価格の均一料金がもたらす安心感により、現在も大きな支持を集めています。
一方、このモデルには「運営収支が赤字になりやすい」といった問題があり、昨今は、大手会員制リゾート各社を含め、食事提供料金や宿泊代金の見直しが相次いでいます。
昨今の光熱費、人件費、資材の価格上昇を考えますと、少々の値上げでは対応できない可能性も心配されるところです。資本力のある企業も多く、経営破綻などはごく一部の話かと思いますが、建築費の高騰もあり、新施設の開発延期などの影響は避けられないでしょう。
今後の会員制リゾート事業では、30~40代の富裕層に支持される商品性が求められます。
一部の会員制リゾートでは、会員の平均年齢が60歳以上になっている例もあり、近い将来、大規模な施設の維持管理が難しくなるのではないかと危惧されています。
また、近年は宿泊施設が多様化、一部で高質・高級化しており、相対的に老朽化が進む大型リゾート会員ホテルの優位性は、「宿泊料金の安さ」のみに限定されつつあります。
加えて2020年に始まったコロナ禍により、独立性の高い宿泊施設を好む価値観が急速に浸透し、大浴場やビュッフェ形式のレストランなど、共用部を多く含む施設は敬遠されがちです。
情報感度や情報収集力が高い若年層富裕層が、今後このような大型リゾートホテルを支持する可能性は低く、大規模な施設にどのように付加価値をつけていくのかという難題が表面化しつつあります。
プライベート感覚で利用できるヴィラや客室温泉を完備した小規模なラグジュアリーホテルの人気が高まっていることからも、今後の会員制リゾートの開発も同様の方向性に進むと考えられます。
コロナ禍の影響もあり、大型ホテルからヴィラ・スモールラグジュアリーに人気がシフト
(今後、会員性リゾートでも同様の流れが進みそうな状況)
会員権や不動産販売など、フロー収益への依存度をいかに下げられるかがポイントと考えています。
実体価値から乖離する高額販売を優先すると、利用料の無償化や低価格化の流れにつながりやすく、そのような思想で設計された会員制リゾートは寿命も短くなります。
過去からも、分譲時に無理をすると、運営収支にしわ寄せが生じて破綻する事例が多々発生しています。
いくら投資回収に目途がついていたとしても、運営収支の見通しが甘ければ、施設運営に必要な固定費により、赤字を垂れ流し続ける経営となります。
販売価格を維持するために過度な高級感演出やサービス体制の設定を謳う事業モデルでは、今後の環境変化に対応することは難しくなるでしょう。
近年新たに発売されているリゾート会員権や共有持分権は高額化のトレンドにありますが、この流れに拍車をかけているのが、建築費の高騰です。
建築費高騰による物件調達コストは今後も右肩上がりとなりそうです。
今後、開発されるリゾート会員権は事業者の想定以上の建築コストとなることで、分譲価格が高騰しすぎるリスクや不動産を小口化しすぎることで予約のとりづらい商品設計となるリスクがあります。
事業者サイドとしては、開発利益の一本足打法ではなく、「ストック型の収益モデル」や「別のキャッシュポイント」を組み合わせるなど、柔軟な発想が必要となっています。
先述の建築費の高騰により、大型リゾート施設の開発は難易度が格段に上がりました。
数十億、数百億円規模の開発投資になると、建築費が1割~2割、想定をオーバーするだけでも大変な追加投資が必要となります。
建物の建築費だけでなく、土地の造成費や開発許可申請に伴う雨水対応工事も含む全般の工事コストが上昇しているため、非常に事業の見通しを立てにくくなっています。
このような環境変化に対応する一つの方向性としては、小規模で質の良い施設を頻度よく作っていく方向があるかと思います。
最近はスマートフォンの普及やIOT技術の浸透や旅館業法の改正により、1棟単体での運営ハードルも下がりつつあります。
スマホ決済を含むキャッシュレス決済の浸透やキーレスシステムの普及により、チェックインアウトの人員を置く必要性も薄れており、施設運営のコスト削減を図れる環境も整いつつあります。
施設の小規模化・単棟化により、事業用地の選択幅も広がり、コンスタントに開発を続けられるビジネスモデルを設計できれば、多様な施設ラインナップを持つ会員制リゾートを構想することも可能な時代となりました。
今後の国内宿泊事業者においては、インバウンド需要を取り込めるかはとりわけ重要と考えています。
円安進行によるメリットを外国人旅行者が享受することから、コロナ後のV字回復を予想する人は多いでしょう。また、日本に近いアジア圏の人口拡大やニューリッチの増加により、長期トレンドで考えても、宿泊業界におけるインバウンド市場のプレゼンスは高くなると考えられます。
一方、国内マーケットは高齢化に伴う社会保障費の増額や物価高進行により、可処分所得はどんどん減少していき一部の富裕層以外は旅行どころではなくなっていく可能性もあります。
このような背景から、今後の会員制リゾートは、インバウンド需要を取り込める仕組みや運用ルールにしておくことが重要と考えています。
最近はビジター利用を受け入れる会員制リゾートも増えていますが、マーケットの変化に対応できるフレキシブルなシステムにしておく必要があると考えられます。
外国人に人気のある開発地の選定や海外OTAとの連携など、環境変化に柔軟に対応できる体制を構築できた会員制リゾートが今後は発展・躍進すると予想しています。
今後、施設の運営コストは右肩上がりが予想されます。
最低賃金の上昇、各種資材の調達コスト、電気料金、ガス料金など、運営に係るコストはどこを切り出しても上昇傾向にあります。
また、現状の日本は低金利ですが、金利上昇も近い将来に生じることを考えますと、硬直的な運営ルールでは、経営の維持が困難になるでしょう。
開発利益確保のために、利用料金の無償化や低価格に傾倒すると厳しい将来が待っていると思われます。
サブスクなど定額利用のサービスも、中長期的には運用ルールや価格設定をフレキシブルにできる仕組みを検討しておくことが必要かもしれません。
ホテルの利用料金もひと昔前までは、1泊2食付き10万円の設定はごくわずかでした。
今は同条件で20万円を超える高級ホテルも珍しくありません。
会員制リゾートであっても、一定の利用料金に関するフレキシブルさは必要な時代となったと認識しています。
利用料金は固定的である方が人気は良いのですが、中長期的には経営が行きづまる可能性もあります。
私たちは運営面で長期安定的であることが、会員メリットにつながると考えており、柔軟な仕組みで会員制度を設計することに重きを置いています。